〜(いろんなことがあったな。)〜
泣けてくる。 いや、泣かせる話というわけではないのだけれども。 才能と、恵まれない境遇と、ストイックさと、少しの自尊心。
上の言葉は山崎の合戦に向かうことになった、官兵衛のもの。
時は戦国、近江から流れてきた黒田家は播州の一豪族、小寺家の家老として姫路に根を張ることになる。小寺家自体はほんの小勢力に過ぎなくて、近場には別所、宇喜多、京には三好一党とそれを侵食する松永久秀、西には毛利一族の大勢力、そして新たな時代の息吹と南蛮文化、異色の織田家、信長と秀吉、荒木村重。
官兵衛はその小勢力の小寺家の、さらに家老にしか過ぎないのだけれども、新たな時代の象徴というべき織田家に惹かれ、播州全体を織田方に引き入れようと奔走する。 明らかに官兵衛には能力があって、でも、”旧時代的な”播州にあってはその立場の低さ、出自の怪しさが足かせになって工作は思うように進まない。理屈は通っても煙たがれるだけ。一方の”実力主義”織田軍団にとっても彼は点の存在に過ぎない。 かと思いきや、招き入れたもっと出自の怪しい”もと乞食”秀吉は天運を感じさせる男だし。
劇的に、というよりは、つらつらとした筆致で。
官兵衛自体は血が嫌いで、がむしゃらな野望をもっているわけでもない。
大したバックボーンもない。
策を練る時は自分を脇に置くことが一番だとも知っている。
ストイックで、乾いたところもあって。
でも、ちょっとした曇りもある。
ひょっとしたら、
天運があれば、
自分だって、ていう。
悲劇とはいわないよな。ほんの少し、僅かに流れるわだかまり。 確かに、行動は実るし、不幸もあるけれど。
そして、当に天下の分かれ目(それは他人にとって、だ)、これから決戦という時に、
(いろんなことがあったな。)
と。
※あとは織田軍団の自転車操業っぷりが迫真で好き。
AA+
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