播磨灘物語 全四巻  司馬遼太郎 講談社文庫



〜(いろんなことがあったな。)〜

泣けてくる。
いや、泣かせる話というわけではないのだけれども。
才能と、恵まれない境遇と、ストイックさと、少しの自尊心。


上の言葉は山崎の合戦に向かうことになった、官兵衛のもの。


時は戦国、近江から流れてきた黒田家は播州の一豪族、小寺家の家老として姫路に根を張ることになる。小寺家自体はほんの小勢力に過ぎなくて、近場には別所、宇喜多、京には三好一党とそれを侵食する松永久秀、西には毛利一族の大勢力、そして新たな時代の息吹と南蛮文化、異色の織田家、信長と秀吉、荒木村重。

官兵衛はその小勢力の小寺家の、さらに家老にしか過ぎないのだけれども、新たな時代の象徴というべき織田家に惹かれ、播州全体を織田方に引き入れようと奔走する。
明らかに官兵衛には能力があって、でも、”旧時代的な”播州にあってはその立場の低さ、出自の怪しさが足かせになって工作は思うように進まない。理屈は通っても煙たがれるだけ。一方の”実力主義”織田軍団にとっても彼は点の存在に過ぎない。
かと思いきや、招き入れたもっと出自の怪しい”もと乞食”秀吉は天運を感じさせる男だし。

劇的に、というよりは、つらつらとした筆致で。



官兵衛自体は血が嫌いで、がむしゃらな野望をもっているわけでもない。

大したバックボーンもない。

策を練る時は自分を脇に置くことが一番だとも知っている。

ストイックで、乾いたところもあって。

でも、ちょっとした曇りもある。


ひょっとしたら、

天運があれば、

自分だって、ていう。



悲劇とはいわないよな。ほんの少し、僅かに流れるわだかまり。
確かに、行動は実るし、不幸もあるけれど。


そして、当に天下の分かれ目(それは他人にとって、だ)、これから決戦という時に、

(いろんなことがあったな。)

と。








※あとは織田軍団の自転車操業っぷりが迫真で好き。





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DATE:2003/08/06 07:33
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