■ [レビウ]コンスタンティノープルの陥落 塩野七生 新潮文庫
時は1453年、衰退したものの難攻不落と言われたコンスタンチノープルが、若きオスマントルコの皇帝・マホメッド二世に陥落させられるまでを描く歴史絵巻。
これはいいなあ。歴史物のとりどりが詰ってる。
物語は群像劇式に、複数の視点から語られていきます。オスマントルコ、やむなくオスマントルコに加わるキリスト教徒、防衛側、中立、軍人から一般人と。
いくらコンスタンチノープルの城塞が堅固だとはいえ、ビザンチン帝国は既に風前の灯、滅ぶべきものが滅んでいくという物語。
一時代の終焉とそれを目前にした人々が描かれます。
ある種枯れた文章なのに、スリリングさと熱気、滅びの美学も悲哀も全部ひっくるめて語ってる。情報の説明が上手いのもあるんだろうなあ。
嫌々オスマントルコ側に参加して鉄砲玉をさせられるセルビアの王子とか、一時の判断でスキを作ってしまう司令官の話とか、諸行無常のエピソードもその逆も事欠かきません。そして城壁は破られていく。
歴史走馬灯小説と名付けることにしました(←?)
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■ [レビウ]ロードス島攻防記 塩野七生 新潮文庫
世界史強化キャンペーン続行中。
ビザンチン帝国が滅ぼされた後、ロードス島はキリスト教の最前線となり、オスマントルコにとっては身中の蛇となった。島を守るのは数百人の聖ヨハネ騎士団。彼らは幾度となくトルコ軍を退けたが、1522年、スルタンのスレイマン大帝は自ら十万の軍を率いてロードス島に進撃する。
「コンスタンティノープルの陥落」の約七十年後が舞台のやはり陥落もの。歴史的なことはさておいて(指摘できるほど詳しくない)、小説としては、「ロードス〜」にあるものは大体において「コンスタンティノープルの陥落」(→log)に含まれているし、後者のほうが物語としての幅も規模も大きいです。読んだ順番のせいかちょっと物足りなかったです。戦記物というよりは聖ヨハネ騎士団という特異な集団にスポットを当てた、というほうが近いかもしれません。全てが終わった後の、”その後の騎士団”を短く記したエピローグが光ってたり。
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■ [レビウ]レパントの海戦 塩野七生 新潮文庫
→1570年、オスマントルコはキプロスに侵攻、これを迎え撃つ為にキリスト教国は連合艦隊を結成する。両軍はレパントで激突、「ガレー船による史上最大の戦闘」は、地中海の時代の終焉を告げるものでもあった。。
「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」に続く地中海戦史三部作のラスト。この辺をまとめると
1453 | 1467 | |
ビザンツ帝国滅亡 | 応仁の乱 | |
1500前後 | 1492 | |
チェーザレ・ボルジアがイタリア席捲 | アメリカ大陸発見 | |
1523 | 1543 | |
ロードス島陥落 | 種子島に鉄砲伝来 | |
1573 | 1573 | |
レパントの海戦 | 足利義昭追放 | |
1600 | 1639 | |
イギリスが東インド会社を設立 | 鎖国完成 |
てな感じ。つまり、世界の舞台が地中海から大西洋・それ以上へと移っていく中での、一つの大戦争だと言えます。毎度のことながら情報の整理・描写が上手くて、この「レパントの海戦」も、海戦以前の政治・海戦・その後の政治という三部構成で経緯を追っています。地中海を死守したいヴェネチア、乗り気ではないスペイン、落日のローマと各国の思惑が入り乱れ、まさしく戦争は政治の延長であり、そしてこの戦争を境にして地中海の価値が下降していくわけです。
「コンスタンティノープルの陥落」「ロードス島攻防記」が落城の物語なら、これは地中海の時代が終わっていく物語。枯れてるように見えて、余韻の残る文章は好き。
それにつけてもキリスト連合のグダグダっぷりはどうしようもなくて、そんなんだから君らは乗り遅れるんだよって、はるか先だった。
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